『登記懈怠』と『選任懈怠』、さぁどっち?

年間100件前後の会社の登記手続きをしているとそのうち取締役などの役員の変更を放置していて相談を受ける会社が必ず毎年数%はあります。
数年前、東京法務局品川出張所で聞いたところでは、「東京23区では6ヶ月、それ以外では1年くらいの役員変更の懈怠が過料の目安」とのことでしたので、クライアントへもそれを目安にアドバイスをしてきました。
ちなみに『過料』とは行政罰で、罰金などの刑罰ではないので前科にはなりませんが「罰」ですから経費に計上はできませんし、突然代表者の住所に通知が来るので驚きます。知る限りでは10数万円というのが最大の金額です。
しかし、最近聞いた“ある法務局筋の情報”では「東京23区では1年役員変更を懈怠すると過料の手続きをとる」とのことでした。あくまで法律上は変更が生じてから2週間以内の手続きが必要ですので早く登記するに越したことはありませんが、ギリギリの方はお急ぎください。(なお期間内だからといって過料に処されない保証はできません。)
-会社法-
(変更の登記)
第915条  会社において第911条第3項各号又は前3条各号に掲げる事項に変更が生じたときは、二週間以内に、その本店の所在地において、変更の登記をしなければならない。
(以下省略)
(過料に処すべき行為)
第976条  発起人、設立時取締役、設立時監査役、設立時執行役、取締役、(省略)は、次のいずれかに該当する場合には、百万円以下の過料に処する。ただし、その行為について刑を科すべきときは、この限りでない。
一  この法律の規定による登記をすることを怠ったとき。
(省略)
二十二  取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人がこの法律又は定款で定めたその員数を欠くこととなった場合において、その選任(一時会計監査人の職務を行うべき者の選任を含む。)の手続をすることを怠ったとき。(以下省略)
なおこれらの懈怠は登記を申請して初めて法務局に判明するので登記を申請するまでは過料の通知は来ません。
また同じ筋からの情報で驚いたのが、『「①登記の懈怠」と「②(役員の)選任の懈怠」では後者の方が過料の金額が多くなる』という取扱い、という点です。
(例) 取締役の任期2年、10年間登記を放置していた場合
① 登記の懈怠
2年毎に取締役は選任していたが登記のみ忘れていたケース
② 選任の懈怠 →過料の金額が多くなる
そもそも10年間取締役の選任そのものをしていなかったケース
経験則上、手続きを放置していた期間の長さのみが過料の額の判断基準かと思っていたのでそれ以外にも金額が変動する要因があったことには驚きました。
長期間放置していた場合、安易に『選任懈怠』で処理している事例が散見されます。許認可によっては選任懈怠の場合、登記上任期が切れて問題になるケースもあります。お金と信用をまとめて失わないよう、専門家も冷静な判断が必要です。非公開会社の役員の任期を10年まで伸長できるしくみも活用し、早め早めの適切対応で無駄な出費を抑えましょう。ちなみに今月で誕生から2年を迎えた一般社団法人も理事の任期は2年(伸長不可)、登記が必要です。

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