遺産分割を無駄にしないために
「遺産分割の協議が有効に成立するためには、共同相続人全員の参加と合意を必要とし、一部の相続人を除外してされた遺産分割の協議は、原則として無効です」
(東京地判昭39.5.7下民集第15巻5号1035頁)
最近、「被相続人が亡くなり相続人間で遺産分割協議が整ったのでいざ相続登記をする段階になって、実は他にも相続人がいた」ことが発覚し相談を受けるケースが数件続きました。先に述べたとおり共同相続人全員の参加と合意がない遺産分割の協議は無効ですので、改めて、発覚した相続人を含めた共同相続人全員で遺産分割の協議をする必要があります。しかし最終段階で新たな相続人が発覚したケースの場合、ここで手続が止まってしまうことがほとんどです。早い段階で全ての相続人が判明していれば、こうなる前に対策を打てたかもしれません。
逆に、相続権を有しない者(相続欠格者、被廃除者のほか、遺産分割後の嫡出否認、親子関係不存在確認の訴え等により、相続開始の時まで遡って相続人の地位を喪失した者を含む)が参加した遺産分割協議も学説上無効であると解されています。この中の相続欠格者については民法891条で定められています。(ちなみに制限列挙です)
(相続人の欠格事由)
第891条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
1 (省略)
2 (省略)
3 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
4 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
5 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
例えば「自己に有利な遺言を破棄した場合」にはこの欠格事由の第5号にあたるでしょうか?
判例は、『遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿という行為そのものに向けられた故意のほか、それらの行為により相続に関して不当な利益を得ようとする目的を有していた者にのみ適用される』との解釈を示しています。(『二重の故意』)
この場合は不当な利益を目的とするものではないとして欠格事由に当たらないとされています。
また、遺言者の死後に自筆遺言証書としての方式を整えたというケース(被相続人名下及び各訂正箇所の訂正印、契印などを相続人が押印したケース)でも相続欠格者に当たらないと判断されています。
ちなみに相続欠格者は『遺贈』を受けることもできません。
(推定相続人の廃除)
第892条 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
廃除の場合は家庭裁判所に廃除の請求をする必要があります。なお、廃除の旨は被廃除者の戸籍謄本に「平成○○年○月○日父○○○の推定相続人廃除の裁判確定同月○日父届出」といったように記載されます。(遺言による廃除<民法第893条>も可能です。)
相続欠格者及び相続廃除者の効果は絶対的で取引の安全より優先されるため、欠格者が勝手に相続登記をして第三者にその持分を譲渡しても第三者は無権利者による処分として権利を取得することはできません。
相続開始後の遺産分割手続にせよ、生前の遺言にせよ、相続に関する手続のスタートは相続人の確定です。戸籍の読み込みも含め早めに専門家に相談しましょう。