類似商号規制の廃止(見えないリスク)
『子会社の名前を変更しようと思って調べてたら、親会社の株式会社フィールズ(仮)のある同じ区内に全く同じ名前の別会社があったんですよ!これはどういうことですか?』
ご存じのとおり平成18年5月の会社法施行により、株式会社設立の手続きは非常に簡便化し、最短1日で設立することも可能になりました。実際、昨年度の会社設立件数は、会社法施行直前の平成17年度と比べると、なんと3.5倍です。その背景には、最低資本金制度(株式会社1000万円)の廃止や、金融機関による払込手続きの緩和といった要因がありますが、実務上、ある規制が撤廃されたことがとても大きな要因の一つなのです。
それが、『類似商号の登記禁止規制の撤廃』です。
類似商号の登記禁止規制 とは
会社法施行前の商業登記制度については、紛らわしい商号(会社の名称)を排斥するため、同一市町村において他人が登記した商号について、同種の営業(目的)について登記することが禁止されていました。(旧商法19条 ほか)
また、旧商法20条により、同一商号の同一市町村内での使用は不正競争の目的であると推定されていました。
この規制があった当時は、会社を設立する場合、管轄法務局で① 類似する商号があるか、②目的の語句が登記できるかなど、厳格な調査と法務局との打合せが必須でした。(事前に商号を確保する「商号の仮登記」制度もあった。)
この規制が撤廃され、(目的等にかかわらず)同一商号かつ同一住所でない限り登記が可能になり、「目的」についても柔軟な記載が認められたので、現在の迅速な設立手続きが可能になったのです。しかしこれは『法務局は類似商号問題について一切規制をしないから、紛争が起きたら、当事者が裁判で解決しろ』ということでもあるのです。
商号の不正使用については、侵害者に対して、① 商号の使用差し止め、② 第三者が登記した商号の抹消、③ 損害賠償、を求めることができます(商法12条2項・会社法8条2項・民法709条)。不正競争防止法においても、商号として広く認識されているものと同一もしくは類似の商号を使用して、他人の営業と混同させる行為を禁止しています。
2008年に消費者金融大手のアイフル株式会社(京都市)が同社本社の向かいを所在地として登記された“株式会社アイフル”の商号使用差し止めを求めた話はまだ記憶に新しいですし、冒頭の話は最近の実話に基づいています。
商号変更や会社設立、本店移転の際は、無駄な争いや再度の変更の手間を避けるため、登記情報提供サービスやネット検索などで必ず調査をし、大切な商号であれば商標登録も含め、きちんとリスクヘッジをしていきたいですね。