遺言を無効にさせないために

最近は以前にも増して遺言書を残す人が増えています。つい先日には、今話題のムック本の『遺言書特別パッケージ』という雑誌が週刊ダイヤモンド責任編集で発売されました。これには「自筆証書遺言」の作成をサポートする解説書と書き込み式の遺言書シートや財産リストなど、誰でもすぐ遺言書を作れるキットが付録として付いているそうです。
 ただ、遺言書は遺言者自身が亡くなって初めて効力が生じる独特なものです。最後の意思表示を無効にしないため、遺言執行の実務を考えない遺言は実はとても危険です。
例えば、遺言で財産を承継させるには、『相続させる』と『遺贈する』という表現があります。今回は、その『相続させる』旨の遺言と代襲相続についての問題を挙げてみます。
「相続させる」旨の遺言
判例:『特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言は、遺贈であることが明らかであるか又は遺贈であると解すべき特段の事情のない限り、遺産分割方法の指定と性質決定される』とし、当該遺産は、特段の事情のない限り遺言者(被相続人)の死亡時に、何らの行為を要せずして、相続により承継される。
登記実務でも、相続させる旨の遺言により遺産を取得する特定の相続人は単独で相続による移転登記ができます。(遺贈であれば権利取得者と遺言執行者又は法定相続人の共同申請が必要。)
 民法第994条第1項は、「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力が生じない。」と規定し、受遺者が遺言者より先に死亡した場合には、当該遺贈は効力を生じず、受遺者の相続人が代わって遺贈を受けることができないと明記しています。この遺贈に関する規定が「相続させる」旨の遺言に(類推)適用されるでしょうか。
特定の相続人に「相続させる」旨の遺言を残した遺言者より先にその特定の相続人が死亡したとき、その相続人の子は、その相続人に代わって遺言により当該遺産を取得することはできないとするのが、登記先例・実務です。
実は平成18年に東京高裁で出た判決は、「特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言がされた場合において、当該相続人が遺言者より先に死亡したときは、当該相続人の子が遺言により当該遺産を取得する」としました。
しかし、この判決後も登記先例・実務の運用は変更されていません。したがって、今後も遺言者が、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言をする場合、『当該相続人が遺言者より先に死亡したときにどうしたいか』を遺言上明らかにする必要があります。(遺贈も同様)
遺言は執行時にその文言のひとつについても問題になることがあります。やはり遺言作成は簡単にはいきません。

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